S&P株価指数 ブル・ベア相場の歴史 1871年~2017年
はじめに
株式市場の状態は、しばしばブル相場やベア相場と呼ばれ、投資家の意思決定や経済分析に重要な影響を与えます。そのため、ブル相場とベア相場の相場サイクルは、投資家から大きな関心を集めています。
ブル相場は通常、経済指標や企業の収益の改善によって、投資家の株式の評価に良い影響を与えます。その結果、投資家は市場に資金を投入し株価を上昇させます。一方、ベア相場は通常、景気の低迷や企業の収益の低下によって、投資家の株式の評価に悪い影響を与えます。その結果、投資家は債権や現金および現金同等物などに移行し株価を低下させます。
市場の状態は、短期間または長期間持続します。ブル・ベア相場の期間は、主に経済成長の期待に基づく投資家の行動の変化によって大きく左右されます。将来の市場の状態を正確に予測する方法はありません。そのため、投資家はしばしばブル相場の天井で株式を購入することや、ベア相場の底で株式を売却する残念な結果で終わることがあります。最善の防衛策は明確な投資計画にしたがって、最良の行動方針を用意することです。現在の市場の状態および過去の市場の状態を知ることは、最良の投資計画を用意するうえで重要になります。
当ブログは2013年にノーベル経済学賞を受賞した、ロバート・シラー教授の提供するデータを使用しています。*1
ブル・ベア相場の期間
図表1は、1871年1月から2017年5月までのS&P株価指数のブル相場およびベア相場の期間を示しています。ブル相場は、底から少なくとも20%以上の上昇および持続期間が3か月を超えるものとして定義しました。一方、ベア相場は、ブル相場の天井から少なくとも20%以上の下落および持続期間が3か月を超えるものとして定義しました。
1871年1月から2017年5月にかけて、ブル相場は22回ありました。ブル相場は均して4年9か月続き、総収益は140.91%でした。一方、ベア相場は21回、均して2年4か月続き、総収益は-35.69%でした。
現在の2009年4月に始まったブル相場は、すでに平均より多い215.60%の総収益をあげています。また、4番目に長く、平均より継続しています。もっとも長く続けば、2024年まで継続する可能性があります。
「図表1」S&P株価指数 ブル・ベア相場 期間(1871~2017)
(Source : イェール大学「ONLINE DATA ROBERT SHILLER」)
ブル・ベア相場の速度
1871年1月から2017年5月までの146年の期間にわたって、S&P株価指数の年間収益率は15.86%でした。1872年以降のブル相場では1桁の年間収益率は一度も無く、12のブル相場(1871年2月~1872年5月を除く)においては、S&P株価指数の年間収益を上回りました。
ブル相場の年間収益率の平均および中央値は、それぞれ21.28%と17.95%に対して、ベア相場の年間収益率の平均および中央値は、それぞれ-23.13%と-20.50%となりました。つまり、ベア相場はブル相場よりも急速に展開することがわかります。
現在の2009年4月に始まったブル相場は、過去のブル相場と比べ遅く展開しています。20のブル相場(1871年2月~1872年5月を除く)のうち、14番目に遅く上昇しています。
「図表2」S&P株価指数 ブル・ベア相場 年間収益率(1871~2017)
(Source : イェール大学「ONLINE DATA ROBERT SHILLER」)
「表1」S&P株価指数 ブル相場 データ(1871~2017)
開始月 | 終了月 | 期間(月) | 総収益 | 年間収益 |
1871年02月 | 1872年05月 | 17 | 16.67% | 12.26% |
1877年07月 | 1881年06月 | 49 | 141.03% | 24.60% |
1885年07月 | 1887年05月 | 24 | 37.21% | 17.95% |
1891年01月 | 1893年01月 | 26 | 21.96% | 10.00% |
1896年09月 | 1902年09月 | 74 | 132.28% | 14.86% |
1903年11月 | 1906年09月 | 36 | 60.22% | 17.54% |
1907年12月 | 1909年12月 | 26 | 64.80% | 27.10% |
1915年01月 | 1916年11月 | 24 | 38.91% | 18.71% |
1918年01月 | 1919年07月 | 20 | 39.85% | 23.60% |
1921年09月 | 1929年09月 | 98 | 385.27% | 21.58% |
1932年07月 | 1932年09月 | 4 | 73.17% | N/A |
1933年04月 | 1934年04月 | 14 | 75.28% | 67.88% |
1935年04月 | 1937年02月 | 24 | 115.34% | 49.21% |
1938年05月 | 1939年10月 | 19 | 30.44% | 19.38% |
1942年05月 | 1946年05月 | 50 | 138.52% | 23.72% |
1946年12月 | 1962年03月 | 185 | 378.49% | 10.75% |
1962年11月 | 1968年12月 | 75 | 86.90% | 10.93% |
1970年07月 | 1973年01月 | 32 | 56.63% | 18.97% |
1975年01月 | 1987年08月 | 153 | 391.13% | 13.39% |
1988年01月 | 2000年08月 | 153 | 516.37% | 15.44% |
2003年03月 | 2007年10月 | 57 | 83.94% | 13.95% |
2009年04月 | ? | 99 | 215.60% | 15.11% |
平均 | 57 | 140.91% | 21.28% | |
中央値 | 34 | 79.61% | 17.95% |
(Source : イェール大学「ONLINE DATA ROBERT SHILLER」)
「表2」S&P株価指数 ベア相場 データ(1871~2017)
開始月 | 終了月 | 期間(月) | 総収益 | 年間収益 |
1872年06月 | 1877年06月 | 62 | -47.30% | -11.84% |
1881年07月 | 1885年06月 | 49 | -34.65% | -10.09% |
1887年06月 | 1890年12月 | 44 | -22.03% | -6.71% |
1893年02月 | 1896年08月 | 44 | -32.09% | -10.24% |
1902年10月 | 1903年10月 | 14 | -29.27% | -27.36% |
1906年10月 | 1907年11月 | 15 | -37.69% | -33.33% |
1910年01月 | 1914年12月 | 61 | -28.64% | -6.53% |
1916年12月 | 1917年12月 | 14 | -33.40% | -31.28% |
1919年08月 | 1921年08月 | 26 | -32.18% | -17.00% |
1929年10月 | 1932年06月 | 34 | -84.76% | -49.55% |
1932年10月 | 1933年03月 | 7 | -24.58% | N/A |
1934年05月 | 1935年03月 | 12 | -22.99% | -24.79% |
1937年03月 | 1938年04月 | 15 | -45.39% | -40.46% |
1939年11月 | 1942年04月 | 31 | -39.23% | -18.06% |
1946年06月 | 1946年11月 | 7 | -21.44% | N/A |
1962年04月 | 1962年10月 | 8 | -20.09% | N/A |
1969年01月 | 1970年06月 | 19 | -29.02% | -20.43% |
1973年02月 | 1974年12月 | 24 | -43.35% | -25.66% |
1987年09月 | 1987年12月 | 5 | -26.84% | N/A |
2000年09月 | 2003年02月 | 31 | -43.65% | -20.50% |
2007年11月 | 2009年03月 | 18 | -50.83% | -39.41% |
平均 | 26 | -35.69% | -23.13% | |
中央値 | 19 | -32.18% | -20.50% |
(Source : イェール大学「ONLINE DATA ROBERT SHILLER」)
結論
通常、ブル相場はベア相場よりも長く持続し、ベア相場の平均収益の損失よりも、遥かに大きな収益をもたらす傾向がわかりました。また、ブル相場はベア相場と比較して遅く展開するため、バイ・アンド・ホールドが有効であるといえます。
ベア相場の底では平均して36%を失うことが分かりました。36%の損失は、損益分岐点まで55%の利益を必要とします。株式を購入する投資家は、その投資を合理化するために少なくとも55%の利益を期待する必要があります。また、株価は最終的に合理的な水準に戻ってくることを歴史が示しているため、ベア相場はいい会社の株を割安な価格で購入する絶好の機会にもなり得ます。次のベア相場が過去の経験したことを経験すると仮定すれば、20年を超える長期投資では、36%以上のマイナスは良い買い場となる可能性があります。
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脚注
*1:「ONLINE DATA ROBERT SHILLER」『イェール大学』、最終閲覧日:2017年 04月 21日、URL: http://www.econ.yale.edu/~shiller/data.htm