投資向上委員会

投資スキルを向上させたいブログです

よく分かるスマートベータ

はじめに

 近年スマートベータと呼ばれるファクターへの投資が注目を集めています。2014年4月にGPIF (年金積立金管理運用独立行政法人) が、国内株式のアクティブ運用でスマートベータを採用し話題を呼びました。*1 また、スマートベータ型のETFが数多く開発されるなど、個人投資家にも身近になってきています。

 スマートベータに明確な定義はありませんが、一般的に従来の株価指数時価総額加重をベースにしない、非時価総額加重を表す言葉として多く用いられます。 *2 野村證券によると*3

スマートベータとは 時価総額以外の基準を重視して財務指標や株価の変動率など銘柄の特定の要素に基いて構成された指数

としています。したがって、スマートベータは非常に幅広い意味を持ちます。

スマートベータの「ベータ」とは

 資本資産価格モデル(以下 CAPM)と呼ばれるポートフォリオ理論は、1960年代の初期から中期にかけて、多くの学者たちによって開発されました。CAPMは、ベータと呼ばれる市場リスクに応じて、有価証券の期待リターンが形成されるという簡素なモデルです。CAPMによると、ベータ (市場リスク) の大きい有価証券ほど、期待リターンが高くなります。したがって、高いベータの有価証券は市場平均を上回る傾向があります。*4

 時価総額加重インデックスはCAPMに基づき、もっとも効率的なポートフォリオとされています。しかし、時価総額加重インデックスは多くの学術論文で、効率的ではないと指摘されています。何故なら、時価総額加重インデックスは、割高な銘柄の比率が高く、反対に割安な銘柄の比率が低くなるため、時間の経過とともにリターンの低下を避けられません。*5 時価総額加重インデックスには、TOPIX、S&P500、NASDAQ、FTSE100、DAXなどがあります。*6

 そして、もう一つのギリシャ文字であるアルファは、方程式からベータを差し引いたものです。アルファは超過リターンを意味します。つまり、ある有価証券に投資を行う場合に、その有価証券に合わせたベンチマーク (例えばTOPIX) に対して、市場リスクをとる見返りに得られる超過リターンということになります。*7 したがって、アルファは投資家のスキルに起因する可能性があります。優れた投資家は、株式分析、マクロ経済分析、戦略的な資産配分、市場のタイミングなど、さまざまな方法でアルファを獲得しています。

スマートベータへの関心

 アルファは時間の経過とともに獲得が困難になります。何故なら、市場参加者が増え、その参加者がアルファを競いあえばあうほど、アルファの獲得は困難になります。そのため、投資家が一貫して従来の方法でアルファを獲得できるかについての疑問は、スマートベータへの関心を高めるのに役立っています。投資家は、時価総額加重インデックスを採用するよりも、効率的なポートフォリオがあると信じています。

 2013年にノーザントラストが世界の機関投資家51社に対して行った調査によると*8、スマートベータを導入する動機として

「リスク削減」と回答した投資家が92%

分散投資」と回答した投資家が85%

「リターン向上」と回答した投資家が54%

が主な目的としてあげられました。また、野村資本市場研究所がEDHECインスティテュートより作成した資料によると *9 、「最も適切な非時価総額加重の利用方法は?」という質問に対して

時価総額指数の補完」と回答した投資家が54%

時価総額指数の置き換え」と回答した投資家が21%

「アクティブ運用の置き換え」と回答した投資家が25%

と回答しました。スマートベータを採用することでアクティブな戦略を実現し、積極的な投資を補完することが期待されています。

さまざまなタイプのスマートベータ

 スマートベータには明確な定義がありません。一般的に言えば、非時価総額加重を表す言葉であり、非常に幅広い概念を持ちます。野村資本市場研究所は各種資料から、コンサルタントや大学院などが公表しているスマートベータの定義として、以下の引用を紹介しています。 *10

  定義
ラッセル・インベストメント 特定の市場セグメントまたはファクターに対するエクスポージャーを提供するべく設計された透明性が高い、ルールベース戦略
タワーズ・ワトソン コスト効率が良く、透明性が高く、かつ容易に実行が可能な投資戦略によってアクセス可能なシステマティックな株式のエクスポージャー
EDHEC 意図的・非意図的を問わず、何らかのファクター・エクスポージャーを提供する非時価総額加重の投資戦略
ペンション&インベストメンツ 市場時価総額指数に対して、リターンの改善やボラティリティの低減による付加価値をもたらすことを狙った非時価総額加重のシステマティックな投資戦略
ロベコ 市場時価総額比率に代わる代替的なウェイト・スキームに基いて株式比率を加重する指数をパッシブに追従するもの

つまり、スマートベータは特定の要素、ファクターに基づく時価総額加重とは別の加重方法を使うルールベースの戦略になります。時価総額加重インデックスの代わりになるインデックスとして

  • ファンダメンタルインデックス
  • 最小分散インデックス
  • GDP加重インデックス
  • 均等ウェイトインデックス
  • リスク効率性インデックス

などがあります。また、ファクターには

などがあります。

リスクベースポートフォリオ

 2007年から2008年にかけての世界的な金融危機以降、分散化とリスクコントロールに対する関心が高まりました。これは、スマートベータ戦略への関心を高める要因ともなりました。先程のスマートベータを導入する動機として、もっとも挙げられた回答がリスク削減、次に挙げられた回答が分散投資だったことからもわかります。最小分散、均等ウェイト、リスク効率性などのスマートベータは、リスクベースポートフォリオのアプローチに役立ちます。しかし、均等ウェイトのウェートは長期的に目標の水準から離れていくため、頻繁にリバランスする必要があり、そのため取引コストは高くなる傾向があります。また、最小分散やリスク効率性も同様に回転率が高くコストがかさむ傾向があります。

ファクター

 CAPMは効率的市場仮説を前提にしています。なぜなら、CAPMは市場リスクが有価証券のリターンの主な要因であると仮定しているからです。リターンはリスクに対する報酬であり、これは合理的行動のうえに成り立つため、効率的市場仮説の考え方に一致します。しかし、有価証券のリターンは市場リスクだけでは説明がつかない、他の要因や特性があります。スマートベータは、市場リスクとそれ以外の他の要因や特性をファクターにより、有価証券のリターンを表します。学術的にサポートされている要因や特性として、バリュー、モメンタム、クオリティなどがあります。*11

マルチファクター戦略

 近年、スマートベータへの投資家の関心はマルチファクター戦略に移り変わっています。野村資本市場研究所によると*12

 2014年ステートストリート・グローバル・アドバイザーズは、北米及び欧州の機関投資家300社に対して調査を行い、その中で、「スマートベータ戦略をより優れた商品とするため、複数のファクターを参照するべきか?」という質問に対して、67%の回答者が同意している。また、既にマルチ・ファクター型スマートベータを導入している投資家は9%と少ない一方で、「今後、マルチ・ファクター型スマートベータへの投資を検討している」という回答が65%であり、ニーズが高いことが窺える。

マルチファクター戦略は、異なるファクターを組み合わせポートフォリオを作成します。一貫して従来の時価総額加重でアルファを獲得できるかについての疑問が、投資家のスマートベータへの関心を高めました。しかし、スマートベータも一貫してアルファを獲得できる保証はありません。そこで、異なるファクターを組み合わせることで、多様化およびリスクの低減をもたらします。したがって、マルチファクター戦略は単一ファクターと比較して、分散化効果が期待でき、特定期間における単一ファクターの影響を制限することができます。

結論

 スマートベータは選択によってアクティブな戦略を実現し、積極的な投資を補完することが期待できます。そのため、投資家はこれらの選択肢を認識することが重要です。したがって、積極的な戦略を検討する場合、投資家は期待収益の源泉、収益の安定性と持続可能性、リスクの低減など、どの戦略が期待される結果に見合っているのか判断する必要があります。スマートベータは一貫してアルファをもたらし、リスクを低減する魔法の方法ではありません。投資家はスマートベータの賛否両論をより現実的に検討することが必要でしょう。

関連記事

脚注

*1:「GPIF:国内株運用に日経400、スマートベータ採用-J-REITも」『Bloomberg』2014年 04月 07日 08:03 JST、最終閲覧日:2017年 05月 14日、URL: https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2014-04-06/N3M3MI6K50XS01

*2:内誠一郎. "スマートベータ指数がもたらすパラダイムシフト." 証券アナリストジャーナル 51.11 (2013): 37-46.

*3:「スマートベータ指数」『証券用語解説集 野村證券』最終閲覧日:2017年 06月 04日、URL: https://www.nomura.co.jp/terms/

*4:俊野雅司. (2015). 証券市場のアノマリー.

*5:時価総額加重インデックスの問題点と新しい株式インデックス」『ニッセイ基礎研究所』2007年 03月 01日、最終閲覧日:2017年 06月 04日、URL: http://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=37004?site=nli

*6:時価総額加重平均型株価指数」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』2017年 02月 07日 02:55 UTC、最終閲覧日:2017年 06月 04日、URL: http://ja.wikipedia.org

*7:「資産運用におけるベータとアルファ」『三菱UFJ信託銀行』2007年 06月号、最終閲覧日:2017年 06月 04日、URL: http://www.tr.mufg.jp/houjin/jutaku/pdf/c200706_2.pdf

*8:「The New Active Decision in Beta Management,An analysis of the role of alternative
indexing」『northerntrust』2013年 04月、最終閲覧日:2017年 06月 04日、URL: https://www.northerntrust.com/documents/line-of-sight/asset-management/alternative-index-new-active-decision.pdf

*9:「世界の年金基金で進むスマートベータの導入」『野村資本市場研究所』2014年、最終閲覧日:2017年 06月 04日、URL: http://www.nicmr.com/nicmr/report/repo/2014/2014sum07web.pdf

*10:「世界の年金基金で進むスマートベータの導入」『野村資本市場研究所』

*11:「市場のアノマリー、実は大半が存在せず」『THE WALL STREET JOURNAL』2017 年 05月 18日 11:11 JST、最終閲覧日:2017年 06月 04日、URL: https://t.co/5TwDnEim2B

*12:「世界の年金基金で進むスマートベータの導入」『野村資本市場研究所』