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オバマケア代替案を巡る政策動向

トランプ相場、注目されるオバマケア代替案

 21日のニューヨーク株式市場はトランプ政権による政策動向の不透明感が強まったとして、S&P500とダウ工業株30種平均はいずれも1%以上下落し、昨年11月の大統領選以降で最大の下げ幅になりました。*1

 トランプ大統領は3月16日に2018年度 (2017年10月~2018年9月) の予算教書の骨組みを発表しました。*2 国防費や国境警備に関連する予算を増額させる一方で、これらの費用を捻出するために非国防費を減額させる方針となりました。*3 他方、義務的支出(公的年金等の社会保障費、国債利払い等)や、歳入も含めた正式な予算教書の発表は5月頃と見込まれています。企業や市場からの期待が大きい減税案などの詳細は先送りされ、当面はオバマケア(米医療保険制度改革法)の廃止、置き換え政策を最優先事項としています。従って減税案などの議論は春以降になる見通しです。

 しかしオバマケアの代替案に対して民主党、一部共和党議員が反対の意向を示しており下院での可決に難航しています。CBO(米国議会予算局)によると共和党が提示した代替案では、2017年~26年の間に連邦政府の赤字が3370億ドル(約38兆円)削減される見通しです。*4 これはトランプ大統領が掲げる税制改革などに必要な財源であり、オバマケアの廃止、代替案による歳出削減は避けることができません。また無保険者は26年までに2400万人増加すると見込みました。メディケイド(低所得者層向け医療保険制度)の加入者は18年までに500万人、26年までに1400万人が保険を失うと試算しています。*5 従って保険喪失者への対策の財源も必要になると予想されます。

修正案を発表するも無保険者の増加数は修正前と変わらない

 共和党は20日に党内の支持を拡大するためにオバマケアの修正案を発表しました。修正案では、50~64歳の保険加入を支援するために約850億ドル(約9.6兆円)の税額控除を提案しました。一方メディケイドの財源を大幅に削減する内容を盛り込みました。*6 CBOは修正案に対する新たな試算を公表しました。それによると、 2017年~26年の間に連邦政府の赤字が1500億ドル(約16兆円)削減される見込みです。赤字減少の幅は従来試算の3370億ドル(約38兆円)から1500億ドル(約16兆円)に1870億ドル(約21兆円)縮小しました。しかし無保険者の増加数は2400万人と修正前と変わらない見通しとなりました。*7 オバマケアの修正は税制改革などに必要な財源の見通しにも影響するため、法案可決へ道筋がつくまでは次に進むことができません。そのため長期化すれば税制改革を始めとする、経済政策(インフラ投資など)の議論が後回しになってしまいます。

 米国では政府予算は議会を中心に策定されため、トランプ大統領の掲げる政策実現には議会との調整が不可欠になります。したがって、上下両院で多数を占めている共和党との政策協調を円滑に勧める必要があります。何故なら仮にオバマケア代替案が成立したとしても、経済政策 (税制改革、インフラ投資など) は全て議会で議論されなければなりません。トランプ大統領が掲げる政策は、税制改革などで共和党と規模等を巡り意見が大きく異なります。また共和党内には財政赤字の膨張を懸念する議員もおり、健全財政に固執すればインフラ投資や税制改革の実現も困難になると予想されます。政策のための財源を提示できなければ、共和党に歩み寄り規模の縮小や実地時期の後ずれなど軌道修正は余儀なくされます。トランプ大統領による公約実現は不確実性が高いと考えられ、政策動向を引き続き注視していく必要があります。今後の政策運営が期待外れのものとなれば、市場におけるリスク要因となる可能性があります。

足元の米国経済は好調

 2月雇用統計では良好な雇用環境が確認され、今月14~15日に開催されたFOMCでは市場の予想通り利上げが決定されました。IMF(国際通貨基金)が2017年1月16日に発表した世界経済見通し改計見通しによると

アメリカにおいて、2016年前半には弱かった経済活動が後半になって力強く反発し、経済は完全雇用に近づいている。

と述べています。米国の実質GDPの成長率見通しでは2015年2.6%(実績)、2016年1.6%(推計)、2017年2.3%(予測)、2018年2.5%(予測)と景気回復が持続する見通しです。*8 また

トランプ大統領の政策とその世界経済への影響がより明確になるんので、2017年4月の世界経済見通し公表の頃までには、予測のもとになる前提がより具体的になる

としています。いずれにせよ足元の米国経済は好調であり、短期的な調整に終わると予想されます。

脚注

*1:「米国株式市場は大幅安、減税策の実施遅れるとの懸念で」『ロイター』2017年 03月 22日 06:27 JST、最終閲覧日:2017年5月3日、URL: http://jp.reuters.com/article/ny-stx-us-idJPKBN16S2T1

*2:「America First A Budget Blueprint to Make America Great Again」『WHITE HOUSE』URL: https://www.whitehouse.gov/sites/whitehouse.gov/files/omb/budget/fy2018/2018_blueprint.pdf

*3:「米予算教書、歴史的な大規模削減を提案-国防・安全保障費増額で」『Bloomberg』2017年3月17日 01:33 JST、最終閲覧日:2017年5月3日、URL: https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-03-16/OMVZEJ6S972J01

*4:「米共和党オバマケア代替案、数千万人が保険失う=議会予算局」『ロイター』2017年 03月 14日 08:26 JST、最終閲覧日:2017年5月4日、URL: http://jp.reuters.com/article/usa-obamacare-cbo-idJPKBN16K2T9

*5:オバマケア代替案、無保険者2400万人増 予算局が試算」『CNN』2017.03.15 Wed posted at 12:27 JST、最終閲覧日:2017年5月4日、URL: http://www.cnn.co.jp/usa/35098138.html

*6:「米共和党オバマケア改廃法案を修正 支持拡大目指す」『ロイター』2017年 03月 21日 14:54 JST、最終閲覧日:2017年5月4日、URL: http://jp.reuters.com/article/obamacare-republican-idJPKBN16S0F4

*7:「米下院共和党オバマケア代替案の採決延期-保守派が妥協案検討」『Bloomberg』2017年3月24日 07:21 JST、最終閲覧日:2017年5月4日、URL: https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-03-23/ONA4ZU6K50XT01

*8:「世界経済見通し改訂見通し(2017年1月) - 移り行く世界経済の展望」『国際通貨基金』2017年1月16日、最終閲覧日:2017年5月4日、URL: http://www.imf.org/external/japanese/pubs/ft/weo/2017/update/01/pdf/0117j.pdf