投資向上委員会

投資スキルを向上させたいブログです

200年以上にわたって機能するモメンタム投資とは

はじめに

 効率的市場仮説とは、金融資産の市場価格は全ての公開情報を既に織り込んでいるという考え方です。つまり、政府が公表する経済統計や企業の業績、国際情勢、更には自然災害も含めて、あらゆる全ての情報が瞬時に反映されています。したがって、金融資産の市場価格は予測することはできません。しかし、効率的市場仮説に反する結果を引き起こし、原則では説明がつかない現象、アノマリーが報告されています。金融市場のアノマリーには

  • 小型株効果
  • バリュー株効果
  • モメンタム効果
  • リターン・リバーサル効果

など様々なものがあります。当ブログはモメンタムアノマリーについての概要を紹介しています。したがって、もっと詳しく知りたい方はゲイリー・アントナッチの著書「ウォール街のモメンタムウォーカー」(パンローリング)を読んで頂ければ幸いです。

勝者は勝者に、敗者は敗者に

 モメンタムとは過去のパフォーマンスが継続することを意味します。つまり、過去の勝者は将来の勝者に、過去の敗者は将来の敗者になります。2013年にノーベル経済学賞を受賞し、効率的市場仮説を提唱したユージン・ファーマ (Eugene F. Fama) とケネス・フレンチ (Keneth R. French) はこの現象を

過去一年にわたって低いリターンの株式は、次の数ヶ月にわたっても低いリターンを持つ傾向があり、過去のリターンが高い株式は将来のリターンも高い傾向がある。

と述べました。更に彼らはモメンタムに関して

モメンタムはトップレベルのアノマリー

と要約しました。*1

真の持続可能な投資戦略

 研究者は過去200年以上にわたってモメンタムが機能していた実績を発見しました。モメンタムは200年以上のデータに基づくため、歴史的に十分根付いていることがわかります。*2 また、データ量が多く将来的にも信頼のおける結果が期待できます。 したがって、モメンタムは真の持続可能な投資戦略であるかもしれません。

あらゆる市場で機能する

 研究者によって、モメンタムがあらゆる市場でうまく機能するアノマリーとしての地位を確立しました。

  • 米国株式(Jegadeesh and Titman,1993、Asness,1994)*3*4
  • 産業(Moskowitz and Grinblatt,1999、Asness,Porter, and Stevens, 2000)*5*6
  • 外国株式(Rouwenhorst, 1998、Griffin, Ji, and Martin, 2005)*7*8
  • 新興市場(Rouwenhorst, 1999)*9
  • 株価指数(Asness,Liew, and Stevens, 1997、Bhojraj and Swaminathan, 2006、Hvidkjaer, 2006)*10*11*12
  • コモディティ(Pirrong, 2005、Miffre and Rallis, 2007)*13*14
  • 通貨(Menkoff et al , 2011)*15
  • 世界の国債(Asness, Moskowitz, and Pedersen, 2012)*16
  • 社債(Jostova, Nikolova, and Philipov, 2010)*17
  • 住宅不動産(Beracha and Skiba, 2011)*18

日本では機能しないのか?

 モメンタムは一つの目立った例外を除いて、あらゆる市場で機能します。日本ではモメンタムに基いて株式を選んでも有効に機能しませんでした。この失敗によって他市場の成功はデータマイニングに誤りがある可能性を示唆しました。*19 しかし、Asness(2011)*20、Chaves(2012)*21、Hanauer(2013)*22などの研究者によって、日本でもモメンタムは機能することがわかりました。したがって、モメンタムはあらゆる市場で効果的であることを示しています。

モメンタムの利益はリスクプレミアム

 モメンタム投資は効果的であることが分かりました。しかし何故モメンタムアノマリーが機能するのか、確かなことは分かっていません。

 モメンタムアノマリーを説明する主な2つの仮説があります。1つは、モメンタム投資は大きなリスクを背負うと想定されているため、高いリターンはリスクに対する報酬というものです。*23 これは合理的行動のうえに成り立つ効率的市場の考え方に一致します。しかし、サイズやバリューといった普通のリスクファクターではモメンタムの利益は説明がつかないため、まだ発見されていない新しいリスクファクターを見つける必要があります。

非合理的な投資家の行動

 2つめにモメンタムの利益は投資家の非合理的な行動を利用していると仮定しています。投資家の非合理的な意思決定が市場に与える影響を研究する学問に行動経済学があります。行動経済学は投資家の意思決定時に生じる心理学的なバイアスに注目します。主要な心理学的バイアスとして、アンカリング、確証バイアス、ハーディング現象などがあります。モメンタムが機能する論理的な理由は存在し、理由はたくさんあります。ただし、現時点でモメンタムが機能する主張の妥当性について合意を得るのは困難です。しかし、モメンタムの行動経済学的な説明を受け入れれば、投資家の非合理的な行動によって利益をもたらしてくれます。

シンプルな投資

 モメンタムにはパラメーターが一つしか無く(ルックバック期間)、モデルが複雑になることによる過剰適合や過剰仕様などの問題がありません。しかし、複雑である必要性はありませんが体系的にする必要はあります。何故なら体系的なアプローチに従うことによって、深く蔓延した人間のバイアスを最小限に抑えることができからです。モメンタム投資はシンプルだからこそ、システマティックな定量的アプローチを可能とします。

モメンタムの最良なルックバック期間は?

 さて、利益を得るためにどのようにモメンタムを計算すればいいのでしょうか? まずモメンタムの変数を計算する期間、つまりルックバック期間を指定する必要があります。主に3つの異なるルックバック期間があります。

  • 短期的なモメンタム(1か月)ではリターンの反転を示します。*24  
  • 中期的なモメンタム(6か月~12か月)ではリターンの継続を示します。*25
  • 長期的なモメンタム(3~5年)ではリターンの反転を示します。*26

つまり、短期及び長期のモメンタムは将来のリターンの反転を示します。中期のモメンタムはリターンの継続を示し、アウトパフォームする傾向があります。アントナッチの著書ウォール街のモメンタムウォーカーでは、ほぼすべての市場における最良のルックバック期間は6か月から12か月と紹介しています。また学術誌の大部分も、最良のパフォーマンスが得られるルックバック期間は12か月であるとしています。短期的な反転やリターンの逆張り効果から最初の1か月を無視する考え方もあります。

結論

 モメンタムは200年にわたってあらゆる市場で機能してきました。その背景にあるのは投資家の非合理的な行動であり、人の本質は簡単に変わることはありません。したがってモメンタムは一時的なものではなく、今後も機能し続けると考えられます。

脚注

*1:Eugene F. Fama and Keneth R. French, 2008, Dissecting Anomalies, The Journal of Finance, 63, pg. 1653-1678.

*2:Geczy, Christopher and Samonov, Mikhail, Two Centuries of Price Return Momentum(January 25, 2016). Financial Analysts Journal, Vol. 72, No. 5 (September/October 2016).

*3:Jegadeesh, Narasimhan and Sheridan Titman, 1993, “Returns to Buying Winners and Selling Losers: Implications for Stock Market Efficiency,” Journal of Finance 48, 65-91

*4:Asness, Clifford S., 1994, “Variables that Explain Stock Returns," Ph.D. Dissertation, University of Chicago

*5:Moskowitz, Tobias J. and Mark Grinblatt, 1999, "Do Industries Explain Momentum?" Journal of Finance 54, 1249–1290

*6:Asness, Clifford S., Burt Porter, and Ross Stevens, 2000, "Predicting Stock Returns Using Industry Relative Firm Characteristics," working paper, AQR Capital Management

*7:Rouwenhorst, K. Geert, 1998, “International Momentum Strategies,” Journal of Finance 53,267-284

*8:Griffin, John, Xiuquing Ji, and J. Spencer Martin, 2005, “Global Momentum Strategies: A Portfolio Perspective,” Journal of Portfolio Management 31, 23-39

*9:Rouwenhorst, K. Geet, 1999, “Local Return Factors and Turnover in Emerging Stock Markets,” Journal of Finance 54, 1439-1464

*10:Asness, Clifford S., John Liew, and Ross Stevens, 1997, “Parallels Between the Cross-Sectional Predictability of Stock and Country Returns,” The Journal of Portfolio Management, 23, 79-87

*11:Bhojraj, Sanjeev and Bhaskaran Swaminathan, 2006, “Macromomentum: Returns Predictability in International Equity Indices,” Journal of Business 79, 429–451

*12:Hvidkjaer, Soeren, 2006,. "A Trade-based Analysis of Momentum.” Review of Financial Studies19 (2), 457–491

*13:Pirrong, Craig, 2005, “Momentum in Futures Markets,” working paper

*14:Miffre, Joelle and Georgios Rallis, 2007, “Momentum Strategies in Commodity Futures Markets,” Journal of Banking and Finance 31, 1863-1886

*15:Menkoff, Lukas, Lucio Sarno, Maik Schmeling and Andreas Schrimpf, 2011, "Currency Momentum Strategies," working paper

*16:Asness, Clifford S., Tobias J. Moskowitz, and Lasse J. Pedersen, 2012, “Value and Momentum Everywhere,” Journal of Finance, forthcoming

*17:Jostova, Gergana, Stanislova Nikolova, Alexander Philipov, and Christof W Stahel, 2010, “Momentum in Corporate Bond Returns,” working paper

*18:Beracha, Eli and Hilla Skiba, 2011, “Momentum in Residential Real Estate,” Journal of Real Estate Finance and Economics 43, 299-320

*19:高橋典孝. (2004). 証券価格変動のモメンタム現象とリバーサル現象に関する考察: 行動ファイナンスの考え方の整理とそれに基づく定量分析. 金融研究, 23(2), 43-70.

*20:Asness, Clifford S., Momentum in Japan: The Exception that Proves the Rule (March 3, 2011). The Journal of Portfolio Management, Forthcoming. Available at SSRN: https://ssrn.com/abstract=1776123

*21:Chaves, Denis B., Eureka! A Momentum Strategy that Also Works in Japan (January 9, 2012). Available at SSRN: https://ssrn.com/abstract=1982100 or http://dx.doi.org/10.2139/ssrn.1982100

*22:Hanauer, Matthias X., Is Japan Different? Evidence on Momentum and Market Dynamics (December 5, 2013). Available at SSRN: https://ssrn.com/abstract=2345203 or http://dx.doi.org/10.2139/ssrn.2345203

*23:Dudler, Martin and Gmuer, Bruno and Malamud, Semyon, Risk Adjusted Time Series Momentum<(June 22, 2014). Swiss Finance Institute Research Paper No. 14-71.

*24:Lehman, B. N., 1990, Fads, Martingales, and Market Efficiency, The Quarterly Journal of Economics, 105, pp. 1-28 and Jegadeesh, N., 1990, Evidence of Predictable Behavior of Security Returns, The Journal of Finance, 45, pp. 881-898.

*25:Jegadeesh, N., and S. Titman, 1993, Returns to Buying Winners and Selling Losers: Implications for Stock Market Efficiency, The Journal of Finance, 48, pp. 65-91.

*26:DeBondt, W. F., and R. Thaler, 1985, Does the Stock Market Overreact?, The Journal of Finance, 40, pp. 793-805.